架空の研修会社が、面談準備のAIを営業担当2人で試すことにした打ち合わせ
法人研修の会社、アルテラ・キャリア株式会社の例です。説明のために作った架空の会社で、実在の会社とは関係ありません。この連載の1本目の記事でも取り上げました。
同社では研修の相談が来ると、営業担当が顧客管理システム(CRM)から過去のやり取りや以前の案件の記録を1件ずつ探して読み、初回面談の準備をします。営業部長は、AIの導入を担当する社員に、AIで面談の準備を早くするよう求めました。ところが社員が営業担当の1人に準備で困っていることを聞くと、「時間より、お客さまの状況を取り違えるほうが怖いです。古い記録を見て話を進めると、面談の最初でつまずくので。」という答えが返ってきました。
社員はすぐにはAIを入れず、まず営業部長と、誰の何が良くなれば成功かを話し合いました。そのうえで、やり取りの記録をAIに読ませて、面談の準備メモを作らせる案をまとめました。案を説明すると、営業部長からは「営業部全体では、いつ頃から使えそうですか」と聞かれました。社員は、まず営業担当2人で、新任管理職研修の相談に絞って試したいと答えました。
試験導入を始める前に、社員は打ち合わせを開きました。集まったのは、営業部長、AIを使う営業担当2人、情報システム部の担当者です。
情報システム部の担当者からは、どの記録をAIに読ませてよいか、今すぐすべては決められないという話がありました。そこで、どの会社からの相談か、どの資料を使ってよいかが分からないときは、AIを使わずに手作業で準備することにしました。
営業担当からは「手が空いたときに使う、では月末は回りません」という声が出ました。そこで営業部長は既存業務の分担を調整し、AIを試す時間と、出力を確認・記録する時間を2人の正式な業務として確保しました。
続けるか、やめるかを判断するのは営業部長で、判断する日は開始から30日後です。ただし、それまでに2人が対象の相談を受け持ち、AIを実際に使う機会があったことが前提です。30日たっても対象の相談がほとんどなければ、判断の材料がそろわないからです。
確かめたいのは、これまでのやり取りと相談の目的を準備に使えば、面談で顧客の課題と、予算を誰がいつ承認するかをつかめ、次の行動に合意しやすくなる、という仮説です。この仮説を確かめるため、判断の材料には次の4つを選びました。
- 準備と確認にかかった時間
- 面談で、顧客の課題と、予算を誰がいつ承認するかをつかめた件数
- 顧客と次の行動に合意できた件数
- 顧客が、研修をやるか見送るかの判断に必要なことを整理できたか
試す前に、通常の面談準備と確認にかかる時間と、面談全体に対して顧客と次の行動に合意できた割合を記録しておきます。試験導入後は、対象の相談件数や顧客の状況の違いも踏まえて比較し、品質を保ちながら改善したかを確かめます。続ける条件と費用の上限は、開始前に責任者と合意します。
あわせて、品質の条件を守れたかも確かめます。品質の条件は、顧客とのやり取りの質を保つために決めた、次の4つです。
- 顧客に誤った情報を伝えない(研修の効果の説明を含む)
- 確かめていない情報を、事実として扱わない
- 顧客の負担を増やさない
- 面談を望まない相手に、強く勧めない
受注は、30日という短い期間の判断には使いません。期間中に受注がなくても原因がAIにあるとは限らず、受注が続いてもAIのおかげとはすぐには言えないからです。
次のどれかに当てはまったら、試験導入の計画を見直すことにしました。
- 準備メモが面談の進め方に役立っていない
- 準備に要る情報が足りない
- 情報を整えたりメモを書き直したりする手間が、見込みを大きく超える
- 品質の条件を守れない
- AIを使わなくても、記録のルールを変えるだけで準備の困りごとが解消する
顧客情報を許可なく扱うおそれや、重大な誤情報が見つかった場合は、該当する利用をいったん止めます。一方、メモの見せ方など改善できる問題は、直す内容と再評価の日を決めて試します。合意した期間・費用の範囲で改善が見込めない場合は、終了を判断します。
打ち合わせの最後に、導入を担当する社員が「うまくいかなかったら、途中で止めてもいいですか」と聞くと、営業部長は「止めた理由を残してもらえれば、それで構いません」と答えました。そのうえで部長は、やめることになっても試験導入に関わった担当者の評価は下げないと、営業部に伝えました。
始める前に、やめる基準と担当者の仕事の扱いを用意しておく
試験導入について、株式会社100は次のように考えています。
まず、やめる基準は試験導入を始める前に用意しておきます。やめにくい職場では、使ったお金や担当者の努力が、続ける理由になりがちだからです。分かったことと判断の理由を記録すれば、やめても評価は下げないと先に伝えておくと、担当者も問題を報告しやすくなります。
試験導入を始めるかを話し合う場には、日々の仕事を知る担当者と、仕事のやり方を変える権限を持つ責任者の両方が要ります。担当者の善意に頼って使い続けてもらう計画は、忙しい時期や異動で止まりやすいからです。アルテラ・キャリアでも、営業担当の声を受けて、営業部長が既存業務の分担を調整し、試験導入と確認・記録に使う時間を正式な業務として確保しました。
費用には、AIの利用料だけでなく、情報を整える時間と、出力を確かめて誤りを直す時間も入れます。準備メモが早くできても、確かめる時間がそれ以上かかれば、手間はかえって増えます。
やめる前に、うまく使えた相談と使えなかった相談の違いを確かめる
続けるか、やめるかを判断するときにも、株式会社100は次の点を確かめておくのがよいと考えています。
まず、うまく使えた相談と使えなかった相談の違いです。以前にもやり取りがあった顧客ではメモが役立っても、初めて問い合わせてきた顧客ではAIが読める記録が少なく、メモの中身が足りないことがあります。違いが分かれば、すべてをやめずに、効果が出た相談に絞って続けられます。
次に、営業担当から「使いにくい」と言われても、その声だけではやめません。何が使いにくいのかを聞けば、どこに手を入れればよいかが分かります。メモの開き方や見せ方を変えれば済むこともあれば、AIに読ませる記録の整え方から変える必要があることもあります。
また、準備メモを作れても面談の進め方が変わらないなら、最初の仮説を見直します。記録のルールを変えるだけで困りごとが解消するなら、AIを使い続ける必要はなくなります。
自社で、試験導入を始める前に用意しておくこと
自社でAIを試すときは、始める前に次の6つを用意しておきます。
- 試す範囲と費用:対象の仕事と期間、AIを使う担当者、確かめる時間も含めた費用の上限
- 担当:AIを使って確かめる人、AIに使わせてよい記録を点検する人、判断する人。試験導入の作業を誰の仕事に組み込むか
- 品質の条件:顧客とのやり取りの質を保つために守ること
- 確かめる仮説と判断の材料:試験導入で確かめる仮説と、判断する日に見る材料
- 判断する日:日付と、それまでにAIを使う機会が何件あればよいか
- 計画を見直すきっかけ:どうなったら計画を見直すか
試験導入は、本格導入の約束ではない
アルテラ・キャリアで話がまとまったのは、営業担当2人で試すところまでです。本格導入や営業部全体に広げることは、まだ決まっていません。30日後に営業部長が判断するのは、試験導入を続けるか、やめるかです。判断する日や判断する人、判断の材料、計画を見直すきっかけを始める前に用意しておけば、その日には前もって話し合った基準で判断できます。



