業種
ビークルムーバー(車両運搬機)の製造・販売
従業員数
21〜50名
ご支援前の課題
・欧米仕様のHubSpotが日本の商習慣に合わず、活用につながっていない
・日本市場における営業活動の可視化が不十分なため、案件の進捗や成約率を正確に把握できない
・HubSpot利用に対する心理的な抵抗があった
ご支援後の成果
・営業プロセスをリアルタイムで可視化し、戦略判断の土台が整った
・日本市場に合ったCRMを再構築し、チームの運用が定着
・日本発の運用ルールがグローバルに展開されるベストプラクティスに
スウェーデンに拠点を置くストリンゴ社(Stringo AB)は、「ビークルムーバー」と呼ばれる車両を移動させるための特殊搬送機器のグローバル・リーディングカンパニーです。ビークルムーバーを使用すれば、人が手で車両を押すことなく、スムーズかつ安全に車両を移動できるため、世界中の自動車メーカーや研究開発拠点、博物館、法執行機関などで活用されています。業界に先駆けて開発された同社の製品は、40年以上にわたり改良と進化を重ね、「車両の移動に欠かせないのはストリンゴ」と言われるほど、グローバル市場で高い評価を得ています。
ストリンゴ日本法人は近年設立され、本社と連携しながら国内自動車メーカーへの導入拡大を推進しています。営業活動と顧客情報の一元管理を強化しながらグローバルでの商談状況の可視化を実現するにあたり、同社ではCRMツールの刷新に着手しました。世界の営業拠点すべてで共通運用が求められる中、日本支社においてもその中心となるプラットフォームとしてHubSpotの導入を決定しました。
今回は、ストリンゴ本社のChief Marketing Officer(CMO)であるサム・コールマンさま、日本法人の櫻井千恵さま、星子啓子さま、井上智彦さまに、HubSpot導入に至る背景、日本市場特有の課題、HubSpot再構築プロジェクト推進、そして導入後の変化と今後の展望について詳しくお話を伺いました。
コールマン氏:ストリンゴは「ビークルムーバー」と呼ばれる自動車を移動させる機器を製造・販売している会社です。自動車業界のお客様を中心に、車両試験施設や自動車博物館などさまざまなシーンで活用されています。
(ストリンゴ株式会社が提供するビークルムーバー)
ビークルムーバーを製造するにあたり特に重視していることは、ペルソナごとに最適なソリューションを提供することです。最大の顧客層は自動車の製造現場です。車両の生産工程では、車両をスムーズかつ安全に移動させる必要があります。また、車両の試験工程でも使用されています。製品化前の試作品を製作する過程でも、ビークルムーバーは欠かせません。
さらに、デザイン工程における「クレイモデリング(工業用粘土を使用したデザインモデル制作)」にも導入されています。クレイモデルは、わずか数ミリの粘土の盛り削りで、印象が大きく変わることもあり、移動には慎重を要します。そのような繊細な作業にも、私たちの製品が活用されています。
それ以外にも、自動車の博物館や高級車の個人コレクター、警察など、さまざまな業界に導入実績があります。たとえば、犯罪捜査の証拠として押収された車両は、重要な証拠品であるため、手で押して移動させることができません。そのような現場でも、私たちのビークルムーバーは「車に直接触れることなく移動させる」ことを可能にしています。
櫻井氏:ビークルムーバーStringoは40年ほど前に開発され、以来ずっと改良と進化を重ねてきました。今では「ストリンゴ=ビークルムーバー」として、製品名そのものが業界の代名詞のように認識されているほどです。実は、競合他社が現れたのはここ10年から15年ほどの間の話で、それまでは世界中どこを見渡しても「ビークルムーバー」という製品自体が存在しませんでした。つまり、私たちが提供する製品は完全にオリジナル、唯一無二のもので、市場そのものを私たちが創ってきたと言っても過言ではありません。
40年間にわたり蓄積してきた「車を安全に、効率的に移動させるためのノウハウ」も大きな強みです。この長年の経験があるからこそ、特殊な環境や条件下でも、お客様のご要望に応じた柔軟なカスタマイズが可能なのです。
ビークルムーバーStringoはすべて受注生産で、スウェーデンの自社工場で製造しています。お客様の使用環境やニーズに応じて、オプションや特殊機能を搭載したうえで出荷します。こうした個別対応ができるというのは、私たちのような専業メーカーでなければ実現できないことだと自負しています。
コールマン氏:私は現在、ストリンゴ本社(Stringo AB)のChief Marketing Officer(CMO)として、ブランディング、Webサイトの設計、マーケティング戦略全般を担当しています。ただし、私の仕事は単なる広報にとどまりません。最も重視しているのは、「マーケティングと営業の間に、信頼に基づいたプロフェッショナルな関係性を構築すること」です。
営業チームが顧客との関係構築や商談をスムーズに進められるよう、必要な情報、ツール、コンテンツを的確に届けること。それによって営業活動の質が高まり、ひいてはお客様の満足度も向上する。そういうサイクルを確立させることが、私のミッションだと考えています。
櫻井氏:私はストリンゴの日本法人の立ち上げ当初から関わっており、何もない状態から、すべての道筋を自ら整えていく必要がありました。日本法人設立に関わる手続き、オフィス環境の整備、お客様との関係構築から日々の事務作業まで、まさにゼロからのスタートでした。
日本では、限られたリソースで市場を開拓しているため、各々の役割は多岐にわたっています。日本市場での営業活動からスウェーデン本社との連携業務、本社から得た情報を日本市場に合わせて展開したり、日本のお客様のフィードバックを本社に伝えるなど、いわば橋渡しのような役割ですね。製品に関する技術的な内容や販売の進捗なども含め、チームや本社とは緊密なコミュニケーションを図っています。
さらに、日本法人ならではの業務として、契約書や見積書の作成など、いわゆる日本の商習慣や法的手続きに則った事務処理もあります。こうした事務作業は、日本市場で信頼を築くうえで重要な要素ですので、正確性やスピードを意識しながら取り組んでいます。
(櫻井千恵氏 ストリンゴ株式会社)
星子氏:私はストリンゴに入社して3年目になります。組織としてはまだまだ小規模体制なため、営業サポートをはじめ、技術サポートやマーケティングサポートなど、あらゆる業務を幅広く担当しています。
HubSpotの導入支援プロジェクトについては、日本チームの中心となって取り組んできました。データの初期入力や各種設定、活用フローの整理などを行いました。まさにゼロからのスタートで、どういうデータをどう整理すれば使いやすくなるのか、本社側の期待と日本市場の実情との間でバランスを取りながら、遠藤さんや100の皆さんに伴走いただきながら進めてきました。
井上氏:私の業務は主に修理・保守対応が中心になります。お客様からご連絡をいただいた際に現場へ伺い、故障対応をしたり、必要に応じて点検や部品交換などを行ったりと、いわゆる現場対応がメインの職務です。
また、修理対応に限らず、製品の納品にも関わっており、納品時には、今後お客様に製品を安全に正しくご利用いただくため、操作方法のご説明や初期サポートも担当しています。
納品からアフターサービスまで一貫して私が対応しています。
ストリンゴの製品はすべてスウェーデンで製造されており、日本市場では輸入販売という形になります。そのため、どうしても言語や技術仕様の違いなどから、お客様が不安を感じられることも少なくありません。そうした中で、国内でしっかりと技術サポートを提供できる体制があるというのは、大きな安心材料だと思っていますし、その責任も大きいと感じています。
コールマン氏:率直に申し上げると、現時点では日本市場におけるシェアはまだ高くありません。ですが、重要なマーケットのひとつです。というのも、日本は世界でも数少ない、国内に複数の自動車メーカーが存在する国です。
自動車メーカーが1社も存在しない国が多い中、日本には約14社も存在します。これは特殊な市場であり、私たちにとっては大きなポテンシャルを秘めています。私たちは米国市場でも高いシェアを持っていますが、実際に米国で販売しているビークルムーバーの多くは、日本の自動車メーカーの現地工場向けに導入されています。つまり、日本の自動車産業そのものが、世界の生産拠点やテクノロジー戦略において大きな影響力を持っているということです。
日本法人としての活動自体はすでに数年経過していますが、実際の営業活動に本格的に取り組み始めたのはコロナ禍以降となるため、まだまだこれからというフェーズにあります。しかし、国内の自動車メーカーと本社との橋渡しを行えるという点で、日本市場は今後さらに深掘りしていきたい極めて重要な地域であると考えています。
(サム・コールマン氏 Chief Marketing Officer, Stringo AB)
櫻井氏:グローバル本社からの要請があり、CRMの導入が決まりました。具体的には、HubSpotをグローバル標準ツールとして使い、日本法人もこれに沿って顧客情報や商談情報を一元管理していく体制に移行することが求められていました。最初は本社提供のテンプレートに従って導入を進めたのですが、どうしても「使いこなせない」「運用ができない」といった課題が浮き彫りになってきました。
コールマン氏:そもそも私たちがHubSpotを導入した理由は、グローバルで一貫した営業体制を築き、組織として可視化された営業活動を行う必要があったからです。
ストリンゴはスウェーデンを拠点に、自動車メーカーをはじめ、世界中で車両移動にかかわるさまざまなお客様にサービスを提供しています。営業チームは各国に点在していますが、以前はそれぞれが独自の方法、多くはExcelなどのローカル管理で顧客情報や案件管理を行っていました。これは情報のサイロ化や属人化を招き、ビジネスとしての継続性や透明性に大きなリスクを抱えていました。
そこで私たちは、すべての営業活動をひとつのプラットフォームに統合し、リアルタイムで「どの案件が、どの市場で、どの段階にあるのか」を把握できる状態を目指しました。HubSpotは、そのためのベストな選択肢でした。
そして何よりも、私たちはHubSpotの思想に強く共感しました。HubSpotは単なる営業管理ツールではなく、「顧客との関係性を育てるためのプラットフォーム」です。私たちもまた、売ることがゴールではなく、信頼関係を築いたうえで、顧客が納得して選んでくれる状態を目指しています。その点で、HubSpotの思想は私たちのビジネスの在り方と深く一致していました。
星子氏:ただ、当時の日本でのHubSpotの運用は、思うような形で機能していませんでした。まず、日本語で入力しても適切に活用できないという初歩的な問題がありました。入力しても検索が効かない、読み取りも不完全で、たとえば名刺を写真で取り込んでも、正確な情報として登録されない。つまり、業務で使えるレベルに達していなかったんです。グローバルで1つのHubSpotアカウントを活用していたため、日本市場に適した形での運用が困難でした。
そのため、Excelにて多くの情報管理を行っていました。案件管理、取引先情報の整理、すべてがスプレッドシートベースで管理されていました。これでは業務効率の改善も難しく、データの一元管理や活用も容易ではありませんでした。
(星子 啓子氏 ストリンゴ株式会社)
櫻井氏:最も大きな壁が見積書の発行でした。本社からは、HubSpotと連携した見積書作成ツールを使うようにと言われていたのですが、その仕様が完全に欧米向けで、日本のビジネス慣習とはかけ離れていました。数ページにわたる美しい画像入りの見積書が生成されるのですが、日本の多くのお客様は1枚にまとまった、押印済みの見積書を求めます。
私たちは、グローバルで定められた方針をただ受け入れるだけでなく、日本で成果を出すにはどうローカライズすべきかを常に考えていました。HubSpot自体は高機能でポテンシャルのあるツールだと理解していましたが、それを使いこなせないままになっていたのが非常にもったいないと感じていました。
また、営業活動においても、案件の可視化やパイプライン管理、顧客との接点履歴の蓄積といった部分がまったくできておらず、属人的な情報管理に頼っている状態でした。このままでは組織としての成長に限界が来ると感じ、「今のうちに土台を作っておかないと」という強い危機感がありました。
本社からは「なぜ使っていないのか?」と問われることもありましたが、「使いたいけど使えない」というのが実情でした。だからこそ、外部の専門家とタッグを組み、日本仕様での活用体制を本気で整えていく必要があると考えたんです。
遠藤(ハンドレッド):これはまさに「あるある」です。外資系企業の日本法人の方々は、本国との調整が非常に大変です。特によくあるのがマーケティングまわりで、たとえばWebサイトが本国管理で日本側では自由に更新できないとか、ツールが日本の商習慣に合っていないとか、そうしたお悩みをよく耳にします。
今回のように見積書や請求書といった、いわゆる商流の部分が合わないというのは本当に多く、ここは日本市場特有のニーズだと思います。HubSpotはグローバル製品なので、標準では日本の形式には対応しづらいです。そのため、弊社としてはこうしたローカライズの部分にしっかり対応し、必要に応じて別のサービスと連携させることで、柔軟に構築するというのが大事だと考えています。
コールマン氏: 日本のHubSpotパートナーを5社ほど選定し、徹底的に比較しました。各社の実績や考え方、提供サービスを一つひとつ精査しました。
その中で際立っていたのが株式会社100(ハンドレッド)でした。他社と違って、単なるツール導入の支援業者ではなく、HubSpotの哲学に深く共感し、現場の心理や習慣を変えるところまでコミットしている姿勢が感じられたからです。
実際にコンタクトフォームから連絡を送ったところ、すぐに遠藤さんから丁寧な返信が届きました。第一印象から非常にプロフェッショナルで、「この人なら信頼できる」と直感的に感じたのを覚えています。
今振り返っても、100さんを選んだのは大正解でした。日本チームに対して、ただ機能を教えるだけでなく、なぜ使うべきかという考え方そのものを変える支援をしてくれた、その姿勢は技術的なスキル以上に貴重だったと思います。
星子氏:100さんに入っていただいて、まず大きく変わったのは「このツール、日々の業務で活用できるんだ」とあたりまえのことを確信できるようになったことですね。それまでのHubSpotは、何か入力しても正しく機能しない、どういうルールで使えばいいかわからない、という状態で、触りづらい存在になっていました。
しかし100さんは、最初のミーティングから「まずは今どのように業務が回っているか、現場の流れを教えてください」と丁寧にヒアリングしてくださいました。そして、そのフローをそのまま反映できるように、HubSpotのプロパティやパイプラインを一から一緒に作り直していただきました。
たとえば、商談のステージも本社テンプレートでは「初回接触」「提案済み」「見積提出」などシンプルな区切り方だったのですが、実際の日本市場ではさらに細かいニュアンスが存在します。代理店経由なのか、ユーザー直販なのか、相見積もりなのか、価格検討段階なのか。そうした日本独自の現場感覚をヒアリングしながら、「だったらこういうステージ設計にしましょう」と提案してくれました。まさに伴走型の支援でした。
また、「見やすいUIであること」「誰が見ても迷わない構成になっていること」も大切にしてくれたのが印象的でした。入力項目を増やすのではなく、必要なときに、必要なだけ表示される工夫もしてくださって、日々の運用が楽になりました。
遠藤(ハンドレッド):私たちがHubSpot支援で大切にしているのは、「機能の使い方を説明する」ことではなく、その会社の営業やマーケティングのやり方に寄り添いながら、最適な仕組みを一緒に作ることです。
今回のストリンゴさんとの取り組みでは、現場の皆さんが前向きで、「これを自分たちの武器にしたい」という意志を強く持たれていたので、支援側としても本当にやりがいがありました。私たちは、まず星子さん、櫻井さんや井上さんと一緒に、現在の業務フローを細かく洗い出し、それを「HubSpot上でどう表現するか」を検討しました。
特に今回は、既存テンプレートをカスタマイズしていくのではなく、ゼロベースで設計し直すことを大切にしました。これは手間のかかることではありますが、それだけに大きな効果を期待できます。実際に、プロパティ数は必要最小限に抑えつつ、見たい情報にすぐアクセスできる設計にしました。
こうして現場で「これなら使える」「むしろ使いたい」と思ってもらえる状態を作ってから、初めてHubSpotが機能する土台が整うと、私たちは考えています。
櫻井氏:先にもお話しましたが、見積書まわりは、私たち日本チームにとって最も大きな課題のひとつでした。グローバルではHubSpotとPandaDocを連携し、写真入りでページ数の多い、ビジュアル重視の見積書を出す運用が標準でした。それ自体はスマートで洗練された仕組みだったと思います。
(グローバルで使われるPandaDocの請求書イメージ)
しかし日本では、それがまったく通用しません。
お客様が求めているのは、A4一枚に金額と内訳が明確に記載された押印済みの見積書です。ときには「これ、Excelで作っていただけませんか」と言われることもあります。それくらい、日本の商習慣には慣れや安心感が重視されます。
そのギャップを本社に伝えるのは、想像以上に難しいものでした。言葉の問題というよりも、「なぜそれが必要なのか」という文化的背景を説明しなければならない。それでも私はあきらめずに、「日本のお客様にとっては見積書の出し方もサービス品質の一部です」と繰り返し伝え続けました。
ただ、口で説明するだけでは限界がありました。だからこそ、「じゃあ、それに合う仕組みを日本側で構築しよう」と決めました。そのようなとき、100さんが「board」という見積書作成ツールの導入を提案してくれたんです。
遠藤(ハンドレッド):私たちはこれまで多くの日本企業、特に外資系日本法人の支援をしてきましたが、見積書や請求書に関する問題は必ずと言っていいほど出てきます。欧米の標準ではデザイン性やプロセス自動化が重視される一方、日本では「文書の形式」が意思決定に直結するケースが多々あります。特に押印文化はまだ根強く、たとえPDFでも「押印がないとダメ」というケースも少なくありません。
今回のストリンゴさんでも、まさにその課題がありました。PandaDocは非常に高機能なツールですが、日本のお客様に対してそのまま出すと、見積書として受け取っていただけない可能性がある。営業担当の方が誤解を受けてしまうわけです。これでは本末転倒です。
そこでご提案したのが、HubSpotのデータをそのまま連携できて、日本仕様の見積書を簡単に出力できる国産ツールboardの導入でした。boardはもともと中小企業向けに設計されていることもあり、日本の商習慣にフィットしています。レイアウトもシンプルで、押印もデフォルトで設定できる。しかもHubSpotとのAPI連携も比較的スムーズだったので、運用負担も少なく済むのが魅力でした。
(HubSpotとboardの連携フロー)
このboardの導入によって、見積書発行に関する悩みは一気に解消されました。櫻井さんたちが「これなら現場で使える」「お客様にもすっと受け入れてもらえる」と実感してくださったときは、私たちとしても大きな手応えを感じました。
コールマン氏:私はCMOという立場で、グローバルの営業・マーケティング活動全体を見ています。当然、KPIの中で最も注目するのは「どれだけの案件が、どこまで進んでいるか」という数字です。HubSpotを導入した最大の目的も、まさにこの営業の現在地をリアルタイムで正確に把握することでした。
ですが、日本のパイプラインデータを見ていると、どうしても他国と比べて数字が大きすぎると感じていたんです。案件数が異様に多い。でも、それに対しての成約率が低い。遠藤さんに相談すると、その原因が「相見積もり」であることが判明しました。
正直、私はその言葉を初めて聞きました。つまり、一つの最終顧客に対して、複数の代理店が同時にストリンゴ製品の見積もりを提出しており、それぞれを別々の案件として記録してしまっていたわけです。これは本社側としては完全に見落としていたポイントでした。
たしかに数字だけを見れば、「5件の新規商談が生まれた」と思ってしまう。でも実態は、1件のお客様に対して5社が動いていただけ。これをそのままレポートにしてしまうと、戦略判断を誤るリスクがあります。数字は見た目以上に、文脈とセットで読み解かなくてはいけないと強く実感しました。
遠藤(ハンドレッド):印象的だったのは、サムさんが「知らなかった」と言いながらも、「それならどうすれば正確に見えるか」をすぐに考え始めたことです。一般的に、グローバルのマネジメント層はローカル事情に目を向けづらいのですが、サムさんは現場との対話を非常に大切にされていて、日本の営業プロセスの実態を真摯に学ぼうとしていました。
私たちは、ストリンゴさんの営業フローを細かくヒアリングし、「案件の原点を正しく1つにまとめる」ためのルールを作ることにしました。具体的には、「Primary/Others」という考え方です。
このルールは、日本市場の営業実態を理解したうえで、HubSpotの仕様に沿って無理なく運用できるように設計しました。現場にとっても「そういう区分けなら納得できる」と評判で、何より本社側にとっても正確な数値が把握できるという点で意義が大きかったんです。
(「Primary/Others」のタグを振り分けているHubSpot 取引)
コールマン氏:非常に理にかなった方法だったので、他のマーケットにも展開することにしたんです。データの標準化やレポーティングの精度向上にもつながって、本当に良い学びになりました。
また、日本市場でのローカライゼーションの中で導入した見積もりツール「board」も効果的でした。たとえば、現地の経理システムである弥生会計と連携できるようにしたことで、日本市場特有のニーズにしっかり対応できました。こうした経験を通じて、「各市場にはその国に合わせた調整が必要だ」という意識がチーム全体に根付き、今では他国の展開でも常にその視点を持って取り組むようになっています。
コールマン氏:私がマーケティング部門を率いるうえで、常に意識しているのは「営業とマーケティングの信頼関係をどう築くか」です。CRM導入においても、これはまったく同じです。HubSpotがいかに優れたツールでも、営業の皆さんが信頼できないと感じていたら、その時点で価値はゼロになる。むしろ、ツールがあっても現場で使われなくなる、そのような事例を私はいくつも見てきました。
私自身、何度も現場の皆さんと話をしました。ですが、対話を繰り返すだけでは限界があることもわかっていました。やはり商習慣の違いを埋めることは簡単ではありませんでした。そこで本当に重要だったのが、100さんの存在でした。
井上氏:私が感動したのが、100さんが開催してくれたHubSpotのトレーニングです。ただの操作マニュアルじゃなくて、「なぜこれをやるのか」「どうすれば成果につながるのか」という背景までしっかり言語化されており、非常に丁寧に解説していただきました。このトレーニングを通じて、導入当初に感じた不慣れな入力作業がクリアになり、お客様からの問合せに関する情報共有が容易である事が分かり、それに加えてHubSpotは営業の成果を後押しするためのツールなのだと意識が変わり始めたのです。
その後は、100さんが設定してくれたダッシュボードやレポートが、毎週の営業ミーティングの議題になり、「今月の商談ステージの偏りは?」「どこで詰まっているのか?」といった会話が自然と生まれるようになっていきました。
(井上 智彦氏 ストリンゴ株式会社)
コールマン氏:CRMというのは、本質的には数字ではなく、人間関係のマネジメントだと思います。営業とマーケティング、現場と本社、各拠点のチーム同士。その関係がうまく機能して初めて、数字が意味を持ち始めます。
私が今回、100さんと協業して本当によかったと感じているのは、「このツールを使って、何を実現したいのか」という想いの部分を共有できたことです。技術的な設定はもちろん素晴らしかったですが、それ以上に、現場の不安を解きほぐし、安心感と信頼を生み出す言葉と姿勢が、100さんにはありました。
これはシステム導入の話ではなく、人を動かす仕事だったのだと思います。そして、それを一緒にやってくれるパートナーがいたからこそ、私たちは一歩前に進めたと確信しています。
コールマン氏:本プロジェクトにおける最大の成果は、自分たちのビジネスを可視化できるようになったことです。導入前は、正直どれだけの案件が動いていて、どのチャネルからビジネスが生まれているのか、まったく把握できていませんでした。
マーケティング経由なのか、営業チームが独自に作成した見積もり経由なのか、それすらもわからない。もちろん、どれだけ見積もりを出しているか、どこで商談が失注しているのか、成功しているのかも不明でした。インサイトがゼロという状態だったんです。
しかも当時は、旧代理店から引き継ぐ形で日本市場を立ち上げたばかりであり、競合製品を扱っていた先行企業からシェアを奪い返すという、非常にスピードが求められるタイミングでした。そのような中、意思決定の拠り所となるデータがなかったのは、正直かなり危うかったと今でも思います。
でも今では、HubSpot上でレポートを開けば、案件がどのステージにあり、どのような理由で失注しているか、なぜ受注できたのかが一目でわかるようになりました。案件の動きやスピード、成約までの平均日数、すべてが数字として把握できるようになりました。毎週、自動で届く営業レポートを見るたびに、状況を把握できる状態にたどり着いたと実感します。
数字が見えるようになるというのは、ただの管理ではなく、次の打ち手を考えるための土台になります。今までは、成功していても「なぜ成功しているのか」がわからなかったし、失敗していても「何が原因なのか」が見えていなかった。でも今は、そこにちゃんと理由と傾向があることがわかります。
これは、戦略的な判断をするうえでの最低限であり、最大の武器だと思っています。
櫻井氏:HubSpotを導入してから、何が一番変わったかというと、展示会などで得たリードの情報がきちんと蓄積されて、どのようなお客様が何人追加されて、その後どのような動きがあったのか、それが明確に追えるようになったことです。
もともとExcelで管理していたときは、誰がどこまで対応したか、何がきっかけで案件化したのかといった情報がバラバラで、数字としてもまとまっていませんでした。けれど、今では「展示会で○人の新規リードが追加され、そのうち何件が商談に進んでいる」といったことが、感覚ではなくデータとして見られるようになったんです。
この変化は、私たち日本支社にとってだけでなく、スウェーデン本社にとっても大きな意味があると思っています。以前は「日本では今どういう営業活動が行われていて、どれくらいの成果が出ているのか」というのが、どうしても見えにくかった。でも今は、見ようと思えば本社の誰でも、必要な情報にすぐアクセスできるようになりました。これはグローバルでの信頼関係という点でも、大きな一歩だったと感じています。
数字として明確に「前年比○%アップ」といった定量的な成果を出せる段階ではまだありません。ただ、「見えるようになった」こと自体が、私たちの活動の質を確実に変えているという実感があります。次にどこを改善すべきか、どこでお客様が離脱しているのか、そういった気づきが得られるようになったことが、日本チームにとっての一番の成果です。
(遠藤 祐太朗 株式会社100 取締役 プロジェクト責任者)
星子氏:これまでの取り組みを通じて、ようやく土台ができたと感じています。情報が集約され、案件が可視化されつつあります。次のステップは、一元化されたその情報の活用、HubSpot機能のさらなる有効活用です。
たとえば、私たちが納品するビークルムーバーにはすべて固有の製品番号(シリアル番号)が付与されています。番号ごとに、納品日や修理履歴などを紐づけて一元管理できるようにしたいと考えています。Excelなどで個別に記録していた情報を、HubSpot上で見える化することで、社内での情報共有も容易になりますし、何よりお客様への対応が効率化されると考えます。
また営業面では、これまでメインとしていた自動車メーカーに加えて、将来的には、自動車ディーラー、博物館、警察など、より幅広い業界への展開も本格化させることになると思います。実際、すでにそういった分野のお客様からお問い合わせを受けたり、マーケットの可能性は大きく広がっていると認識しています。
本プロジェクトを通して、ようやく仕組みが整い始めました。「営業の質」「お客様対応の質」「組織としての拡張性」といった部分に今後は目を向けて、チームとしての力をさらに高めていきたいですね。
コールマン氏:当社の米国チームでは、HubSpotの運用が功を奏しています。安定した数のリードを、チームが適切に対応し、パイプラインを通じて案件化していく。そのプロセスがしっかりと機能しています。日本チームでも同じように実現できると確信しています。
そのためには、適切なトレーニングと習得期間が必要であると考えます。HubSpotの活用方法、運用ルール、営業との連携方法、そうした部分の理解と定着が第一です。そのうえで、将来を見据えた「正しい投資」に進んでいく必要があると思っています。
たとえば、単にコンテンツをWebサイトに掲載するだけでは、お客様に確実に情報をお届けすることができません。市場に合った効果的な手法(Meta広告やSEOなど)に適切に投資を行い、見込み顧客との接点を増やしていくことが大切です。
これこそが、私たちマーケティングチームの使命だと考えています。営業担当者が受け取るリードを、より多く、より質の高いものにすること。その責任を果たすために、私自身とてもこの次のフェーズが楽しみです。
この先、私たちは社内体制の再編を経て、新たなスタートを切ります。その中で、100さんは間違いなく重要なパートナーになります。今回のプロジェクトは「終わり」ではなく、むしろ「始まり」です。教育フェーズの次の段階においては、スニペットの作成、テンプレートの整備、そしてさらなるService Hubの機能活用など、取り組むべきことがたくさんあります。今後、一歩ずつ着実に実現し、当社が思い描く理想の形に近づけていきたいと考えています。
ビジネスの成長プラットフォームとしての魅力はもちろん、
HubSpotのインバウンドマーケティングという考え方、
顧客に対する心の寄せ方、ゆるぎなく、そしてやわらかい哲学。
そのすべてに惹かれて、HubSpotのパートナー、
エキスパートとして取り組んでいます。
HubSpotのこと、マーケティング設計・運用、
組織の構築など、どんなことでもお問い合わせください。