採用市場において、学生と企業の双方が抱える構造的な非対称性を解消するプラットフォームとして注目を集めているのが、株式会社ABABAの運営するスカウト型採用サービスです。最終選考まで進んだ学生だけが登録できる独自設計により、選考を重ねてきた学生の経験と可能性を次の出会いへとつなぐ仕組みになっています。
サービス開始以来、累計200,000名の学生が登録し、3,500社の企業が利用するプラットフォームへと急速に成長。就職活動において最終面接まで進んだプロセスそのものが評価される、新たな採用文化を生み出しつつある同社は、HR Tech領域で注目のプレイヤーになります。
しかし、事業の急成長とともに、社内には深刻な課題が表面化していました。営業・マーケティングの担当者が本来活用すべき企業データは複数のシステムに散在したまま統合されず、アプローチ先を選定するスコアリングの根拠となる企業情報は、数年前に購入した時点のまま更新されることなく使われ続けていました。データを活用した戦略的な営業・マーケティングを実現したい。だが、その基盤となるデータ自体が整っていない。この根本課題を解決するため、同社は株式会社100とともにHubSpotの活用再設計に乗り出しました。
本事例では、ABABAが取り組んだデータ基盤の整備から具体的なAIを活用したワークフロー自動化の実装内容、そして今後のデータドリブン経営への展望について、執行役員 兼 コーポレートグループマネージャーの福有勇太氏、事業推進室リーダーの竹野谷透希氏に詳しく伺いました。
竹野谷氏:新卒採用向けのスカウト型採用媒体を運営しています。他の採用サービスとの大きな違いは、最終選考まで進んだ学生しか登録できないという仕組みにあります。
学生さんの立場からすると、最終選考まで頑張ったにもかかわらず不合格となった場合、それまでの努力や経験がすべて無駄になってしまうというのは非常に理不尽です。一方で企業側からすると、競合他社の最終選考まで進んだ学生であれば、一定の能力要件は証明されており、自社との親和性を確かめるだけで採用の可否を判断できます。この双方のニーズが一致するところに、私たちのサービスの価値があります。現在(2026年5月時点)は累計200,000名の学生登録、3,500社の企業様にご利用いただいています。
福有氏:組織の役割についても補足しますと、竹野谷が事業推進室のリーダーとして、社内の業務プロセスの再構築や業務基盤の整備を担っています。私はコーポレート管掌のグループマネージャー兼執行役員として、データ活用や組織全体の戦略面を統括しています。今回のHubSpot活用再設計プロジェクトでは、竹野谷が実務の推進責任者として動き、私がプロジェクトオーナーとして方向性を決める役割分担でした。
福有氏:一言で言うと、個別最適に選んできたツールの代償が顕在化したということです。弊社はこれまで、CRMはHubSpot、サービス側のシステムは別のシステム、そのほかのデータはGoogle SpreadsheetやGoogle Analyticsなど、それぞれの目的に合わせてバラバラにツールを選定してきました。これはスタートアップとして素早く動くためには合理的な判断でしたが、事業が一定の規模に達した段階で問題が浮き彫りになります。
竹野谷氏:私の立場から見ると、データ基盤を統合しよう、業務オペレーションを変えていこう、という方向性が組織として固まったタイミングで、そもそも統合する元のデータがないという問題に直面したんです。データがあちこちに散らばっていて、マスターと呼べるものが存在しない状態でした。
福有氏:一番わかりやすい例で言うと、どの企業にアプローチするかは弊社独自のスコアリングロジックに基づいています。スコアリングの根拠となるデータ、売上規模や従業員数といった企業属性情報がHubSpotに入っているのですが、数年前に購入してから整備が追いついていない状態にありました。つまり、企業の実態は数年間で変わっているはずなのに、アプローチの優先順位を決めるにあたって参照するデータには最新の状態ではないものもあったわけです。課題は感じていましたが、手動で更新するのはリソース的に現実的ではありませんでした。
竹野谷氏:HubSpotの機能自体は一応使っていたのですが、うまく活用できていない部分が多くありました。データエンリッチメントの機能も試したことはあるんですが、結果が英語で返ってきてしまったり、うまくプロパティに入力されないケースが頻発したりして。それを補おうとするとワークフローの分岐が膨大な数になってしまい、管理が追いつかなくなって一旦諦めた、という経緯があります。
プロパティの数自体も多い状態だったのですが、手動では入力しきれないし、自動化もうまくいかない。入力率が低いまま定義だけが残っていて、どうすればいいのかという手詰まり感がずっとありました。
竹野谷氏:ライフサイクルステージも同じような状態でした。ステージを定義して運用しようとしたことはあったんですが、現場の営業担当者がアクションした時だけステージが動く設計になっていて、多くの取引がステージに入ったまま止まっていたんです。結局このパイプラインに意味があるのかという話になって、運用が頓挫してしまいました。
水野(株式会社100):HubSpotをすでに入れているのに活用しきれない、データが使えない、というご相談はよく受けます。事業を急拡大している時期にプロパティをどんどん追加していった結果、定義が曖昧なまま自動化も中途半端で止まってしまう。気がつくとデータの質が担保できなくなっている。ABABAさんもまさにそのパターンで、数年分の整備課題が積み重なっていました。
福有氏:2025年の9月から11月頃にかけて、CRMのあり方を根本から見直す議論が社内で始まりました。既存のHubSpotをそのまま使うべきか、Salesforceに乗り換えるか、というところからスタートして、いくつかのパートナー会社にも話を聞いたんです。
Salesforceは金額面でも運用面でもかなり厳しい、という結論になり、HubSpot継続の方向に。ただ、今まで使ってきた既存のHubSpotポータル(HubSpotにおける各社の管理環境)はもう汚れきっているのではないか、という懸念が強くあって、新しいポータルを立て直す案も検討していました。
福有氏:HubSpotコンサル、HubSpotパートナーといったキーワードで検索した時に、株式会社100のサイトが目に入りました。最初の印象は、会社名のセンスがいいなということと、ホームページのデザインが洗練されているなということでした(笑)。
ただ、実際にお会いしてから決定的な差を感じました。他の会社さんはほとんどが、実情を見る前にエンタープライズプランへのアップグレードを勧めてくる、または詳細の診断なしにポータルを新規作成し直しましょうという話で。ゴールも、そこまでのスケジュールも具体的な回答が何もないまま進めるとなると、これは多分失敗するなという直感がありました。
一方で、水野さんだけが契約前に既存のポータルをきちんと診断してくれた上で、この状態ならポータルを新規作成しない方がいい、既存のポータルでこう進めれば解決できる、という具体的な道筋を示してくれました。課題に対して明確な回答をもらえた唯一のパートナーだったので、水野さんにお願いしようと竹野谷とも話しました。
水野(株式会社100):実際に診断させていただいたところ、ABABAさんのHubSpotは苦労されてきた部分こそあるものの、主要なオブジェクトにはちゃんとデータが入っていて、決して使えない状態ではなかったんです。新規ポータルを作成して設定をやり直すというのは、それまで蓄積してきたデータを捨てるという意思決定とセットになります。ABABAさんは事業の用途が大きく変わるわけではないので、既存のポータルを活かして必要なところを補強する方針が明らかに合理的でした。新規立ち上げの手間とコストもカットできますし。
福有氏:費用よりも、自分たちの課題を理解した上で具体的なアプローチを提示してくれるかどうか、ここを最優先にしていました。いくらでやります、という金額の話よりも、御社の場合はポータルをこう整備すべきだ、データはこう整理すればいい、と具体的な判断を示してくれる人かどうかが判断基準だったんです。
ゴールとスケジュールを握れているかを重視したのも、過去にこういうプロジェクトで具体性のないまま進めて、思うような結果が出なかった経験があったからです。水野さんとの話では、最初から何をするか、どう進めるかが明確だったので、安心感がありました。
水野(株式会社100):大きく二つの軸で進めました。一つ目が、使えるパイプラインとディールステージの再設計。二つ目が、AIを活用したワークフロー自動化によるデータエンリッチメントの実装です。
パイプラインについては、以前の設計が入ったまま動かない状態になっていた根本原因を分析した上で、セグメントを切りやすい構造に再定義しました。営業担当者が毎回全体のリストから手動でセグメントを切るのではなく、ステージの中にいるターゲットを直接狙える状態を作る。これによって、現場の運用負荷を下げながら営業活動の精度を上げる設計にしています。
ステージ遷移の自動化についても重要なポイントがあります。属性情報の変化など、一定の条件が変わったという事実をトリガーにしてステージを自動で動かす仕組みにしないと、結局また運用が回らなくなる。手動入力や手動更新が前提のワークフローは、必ずどこかで限界を迎えます。この点を踏まえて、人が介在する工程を最小化することを設計思想の軸に置きました。
福有氏:最初は定期的にデータを購入してHubSpotに入れる方法も検討していたのですが、水野さんからAIを活用したワークフロー自動化をHubSpotに組み込んで定期実行する仕組みをご提案いただきました。
これを採用した理由は二点あります。一点目は仕組み化できること。データ購入を定期的に行う運用だと担当者の工数が必要ですし、その運用が属人化するリスクがあります。ワークフロー自動化なら、人の手を介さずに定期更新が走る状態を作れます。
二点目は拡張性です。データエンリッチメントだけでなく、HubSpot上のあらゆる業務に応用できる可能性を感じました。今後セールスやマーケティングを高度化していく上で、AI活用の基盤として横展開できる。これが大きかったですね。
竹野谷氏:今回のデータエンリッチメントは、売上データや従業員数といった企業属性情報を、HubSpotのコンタクトや企業レコードに自動で反映させる仕組みです。前にHubSpot標準のエンリッチ機能を試したことはあったんですが、英語で返ってくる、うまく入らない、といった問題があって断念したんですよね。今回はAIを活用したワークフロー自動化を組み合わせていただいて、日本語の精度も含めて格段に使いやすい形にしてもらいました。
水野(株式会社100):このアプローチが効くのは、AIの進化をそのまま取り込める設計になっているからです。設定したワークフロー自体は変えずに運用しながら、内部で呼び出しているAIモデルが新しくなるたびに、取得できるデータの精度や範囲が自然と上がっていきます。一度仕組みを作れば、その後のAI進化の恩恵を継続的に受けられる。保守運用の観点でも合理的なんですね。
福有氏:まず、数年間にわたって更新されることのなかった企業の売上データや従業員数が、AIを活用したワークフロー自動化によって自動的に最新の状態に更新されるようになりました。現時点ではすべてのデータが完璧にカバーされているわけではありませんが、定期的に自動で回り続ける仕組みが出来上がったことの意義は非常に大きいです。
これまでは、スコアリングの根拠となるデータが実態と乖離したまま、それを信じてアプローチ先を決定するという状況でした。今後はデータが定期的に最新化されていく基盤ができたので、スコアリングの精度が現実の企業実態に近づいていきます。
竹野谷氏:データ基盤の整備と並行して、パイプラインとディールステージの再設計も進めていただいています。以前はステージが動かない、現場の運用が続かない、という状態でしたが、自動化とシンプルな設計のおかげで、実際に機能するパイプライン管理に近づいてきました。
福有氏:もう一つ重要な変化があります。これまではセールスやマーケティングの担当者がデータを活用した施策を検討しようとしても、活用できるデータがないという壁に常に突き当たっていました。データ基盤が整いつつある今は、ようやく本来のCRMデータを基にした戦略的なアプローチを実行できる段階に近づいてきています。まだ実際に施策を打てているわけではないですが、それが可能になる射程圏内に入ってきた、という実感があります。
水野(株式会社100):現時点ではすべてのプロパティで100%取得できているわけではありませんが、法人番号や基本的な企業属性情報については入り始めています。組み込まれているAIモデルが新しくなるたびに性能が上がっていく仕組みなので、ワークフロー自体には手を入れず、今後取れなかったデータが自然に取れるようになる、という形で成果が積み重なっていきます。AIの進化がそのまま業務改善に直結する構造になっている、ここが今回の取り組みの一番の特徴ですね。
福有氏:今回のプロジェクトを通じて感じたのは、自社にとって本当に重要なデータが何かを定義することの重要性です。今回で言えば、企業属性のエンリッチメントデータと、Zoomの商談音声ログ、この二つが核になるデータだと特定できています。ここさえきちんと定義できていれば、何をゴールにすればいいかがブレにくくなる。
最初から重要なデータをちゃんと活用したいという意識はあったのですが、それが何かは少しふわっとしていたんです。プロジェクトを進める中でそこが明確になってきて、今は取り組みの軸がブレていません。データ整備を考える上で、ツールや方法論の前に自社の重要データの定義を先にやるべきだ、というのは他の企業にも当てはまる話だと思います。
福有氏:今回は「本当のゴールを最初から決めきらない」というスタンスで進めました。以前であれば、最初にがっちりゴールを設定して、そこに向かって走るというプロジェクト管理が正解だったかもしれません。ただ今はAIの進化が非常に速い。最初にカチッとゴールを決めすぎると、後から動きにくくなる可能性があります。
今回は拡張性を随所に残しつつ、ベーシックな部分だけ先に構築するという方針で進めました。ベースとなる仕組みを作りながら、課題が出てきたら更新を加えていくという、アジャイルに近い進め方です。AIの性能がどんどん上がっていくことを前提に、その進化を取り込みやすい設計にしておくことが重要だと思っています。
竹野谷氏:個人的にはHubSpotが非常に好きで、今後もどんどん活用していきたいと思っています。ワークフローの設計について、もう少し直感的にカスタマイズできるようになると使いやすいなという感想はあるのですが、全体としてはかなり優れたプラットフォームだと実感しています。今後もさまざまな業務にHubSpotとAIを組み合わせて活用していきたいですね。
福有氏:データ基盤がある程度整ってきた今、次のステップとしてはそのデータを活用した実際の営業・マーケティング施策を打っていくことです。これまでデータが不在だったために戦略的なアプローチが机上の議論で終わっていましたが、ようやく実行できる条件が整ってきました。
具体的には、HubSpotに蓄積された最新の企業データに基づいたターゲティングの精度向上、営業の優先順位付けの高度化、さらには音声ログを活用した商談分析なども視野に入れています。
竹野谷氏:今後はパイプラインとデータ基盤をさらに磨き込んで、営業活動の再現性を高めていきたいと考えています。これまでは個々の営業担当者の経験と勘に依存していた部分が多かったのですが、データに基づいた標準的なアクションが取れる環境を作ることが当面の目標です。
福有氏:今まさに同じ課題に直面している企業の方にお伝えしたいのは、データがない、HubSpotがうまく使えていない、という状態はけっして少数の悩みではないということです。弊社もそういう状態からスタートして、少しずつ基盤を整えてきました。完璧なデータ基盤が整ってから施策を打つ、という考え方を捨てて、今できる範囲で仕組みを作りながらAIの進化とともに精度を上げていく。このスタンスで進めることが、今の時代にはむしろ合理的だと実感しています。まずは自社にとって重要なデータが何かを定義して、そこから始めてみてほしいと思います。
※記事中の部署名、役職名等は取材時のものです。