HubSpot導入事例

「データが取れないHubSpot」からの脱却。ライフサイクルステージ再設計とService Hubへの移行で、意思決定できるCRM基盤を築いたe-dashのRevOps改革事例

作成者: 渋谷 真生子|Aug 13, 2026, 9:50:15 PM

脱炭素は、もはや一部の先進企業だけのテーマではありません。取引先からの要請、補助金の要件、そして自社の競争力維持のために、規模を問わずあらゆる企業がCO2排出量と向き合う時代が訪れています。e-dash株式会社は、その社会的要請に応えるべく、2022年2月に三井物産の新規事業として設立されました。企業単位でCO2排出量を算定・管理できる「e-dash」を主軸に、クラウド型のITサービスとコンサルタントによる伴走支援を組み合わせ、企業の脱炭素経営を包括的に支える存在です。

急成長する事業を支えるうえで欠かせないのが、顧客との接点を束ねるCRMです。同社はHubSpotを全社で活用してきましたが、運用ルールが定まらないまま各部門が思い思いに使い続けた結果、経営が求めるデータを取り出せない状態に陥っていました。担当者の入れ替わりが重なり、知見が社内に蓄積されにくいという課題も抱えていました。

本記事では、こうした状況をどう立て直し、ライフサイクルステージの再設計、問い合わせ管理システムからのカスタマーサポート基盤の移行、そしてAI活用へと歩みを進めていったのか、同社でCRM・マーケティング領域を担う和田 すみれ氏と、データドリブン経営の推進を担う佐藤 結衣氏に詳しく伺いました。

脱炭素を加速する。社会インフラとしてのe-dashという事業

― まずは、事業内容と現在注力されている市場についてお聞かせください。

和田氏:弊社は脱炭素を加速するというのをミッションに、2022年2月に三井物産の新規事業として立ち上がった会社です。企業が脱炭素に取り組むなかで生じるさまざまな課題に対して、クラウド型のITサービスと、コンサルタントによる伴走支援を組み合わせて、包括的に支援を行っています。

主軸となるのが、企業単位でCO2排出量を算定・管理できる「e-dash」というサービスです。そのほかにも、カーボンオフセットや製品単位の排出量算定、サプライチェーン調査を支えるプロダクトなど、多角的なソリューションを展開しています。

e-dash:企業や自治体のCO2排出量の可視化・報告・削減を総合的にサポート)

注力市場については、脱炭素はどんな企業でも必要になり得る領域ですので、あえて特定の業界に区切らず、幅広くアプローチしている状態です。お客様の層も上場企業から中小企業まで幅広く、業種も多岐にわたりますが、比較的製造業が多い印象です。

― 大企業だけでなく、中小企業にも活用が広がっているのですね。中小企業にも算定の目標があるのでしょうか?

和田氏:中小企業では、まだ算定が義務化されているわけではありません。ただ、取引先からの要請があったり、市や国から補助金が出たりといったきっかけがあります。大企業が脱炭素に本格的に取り組むなかで、その取引先である中小企業も算定していないと選ばれにくくなってきている、という背景もあります。自社をアピールするために算定したいという企業様もいらっしゃいます。

ルールなき運用でデータが取れない。担当者退職が続いた導入前の課題

― お二人の担当領域と役割についてお聞かせください。

和田氏:私はCRM領域を主に担当しています。HubSpotのライフサイクルステージの管理や運用、ハウスリスト向けのナーチャリング施策の考案、コンテンツ制作などを実施しています。マーケティング部は複数名おり、新規獲得やオフラインの展示会といった施策を担うメンバーもいます。

(和田 すみれ氏:e-dash株式会社 マーケティング本部 マーケティング部 グロースグループ CRM領域担当)

佐藤氏:私は社長直下で、データドリブン経営を掲げるチームのBPR(Business Process Re-engineering)を担当しています。部署間で必要な改善はすべて対象になるので、業務が一つに決まっているわけではありません。その一つとして、弊社ではCRMとしてHubSpotを利用しているので、その運用や管理全般を担っています。弊社ではプロダクトとコーポレート以外のどの部署もHubSpotを使っているので、全社的な運用を整えるのが主な役割です。

(佐藤 結衣氏:e-dash株式会社 社長付/データドリブン担当)

― HubSpotの担当者が何度か入れ替わってこられたと伺いました。その背景には何があったのでしょうか?

佐藤氏:そもそもHubSpotに一番詳しかった担当者が、2024年の11月ごろに退職しました。その後も新しく担当者は立つものの、なかなか定着しませんでした。私自身は引き継ぎらしい引き継ぎもなく、いきなり入ったという感じです。

和田氏:私も同じで、前任者が退職する際に、それほど引き継ぎがないままHubSpotの担当になりました。ただ、私は担当になる前からHubSpot関連の定例会議に参加していたので、なんとなく何をしているのかを把握できていて、そこまで困ることなく業務を進められたと思っています。

しかし、一番大きな問題は担当者の交代が続き、社内に知見が蓄積されないことでした。

― 経営層はHubSpotに対してどのような課題感を持っていたのでしょうか?

佐藤氏:HubSpotに運用ルールが整備されておらず、取りたいデータが何一つ取れない点を懸念していました。何を入力すべきかの取り決め(ルール)がないからです。まずはデータを取れるように運用を構築し、きれいにしていく。それが社長から私に降りてきたミッションでした。

HubSpot自体は全社で多くの人が活用していたのですが、活用するうえでのルールやワークフローが構築されておらず、それぞれが独自のやり方で入力を行っていたのが実情でした。今後AIをうまく活用していくためにも、早い段階でデータ管理のルールを統一することが急務でした。

山田(株式会社100):HubSpotを全社で使えているのに「データが取れない」という状態は、多くの企業で起きています。ツールの導入そのものより、入力ルールと項目定義が整っていないことが原因であることがほとんどです。

e-dashさんの場合、プロダクトとコーポレートを除く全部署がHubSpotを使っている一方で、データの入力基準が揃っていませんでした。まず着手したのは、機能追加ではなく、経営が見たい数字から逆算して「どのデータを、どの基準で入れるか」を決め直すことです。この順番を守らないと、どれだけ機能を足しても、経営判断に使えるデータは生まれません。

(山田智彦 株式会社100 HubSpotコンサルタント プロジェクト担当者)

他社ツールとの比較検討を経て、HubSpotで再出発を選んだ理由

― CRMの立て直しにあたって、他のツールも比較検討されたのでしょうか?

佐藤氏:はい。本当にHubSpotでCRMを続けていいのか、という検討はしました。その中には他社ツールも候補としてありました。結論としては、費用対効果的に今のフェーズではHubSpotが良さそうだ、というところに落ち着きました。

私はこの会社に入って初めてHubSpotを触ったのですが、正直、覚えるまでは操作が難しいと感じました。ただ、やれることはほぼ他社ツールと変わらない。であれば、どう運用を回すかという話だよね、という結論に至って、今もHubSpotを利用しています。

当時、社内には他社のCRMを触った経験のあるメンバーが多く、UIを含めて使いやすいという声もあったので検討しました。とはいえ、そもそもHubSpotの運用ルールすら定まっていない事業を、これ以上自由にカスタマイズできるツールに載せ替えても、使い切れないだろうという判断が一点ありました。HubSpotは活用できる機能が多く他社と比較してもコストパフォーマンスが高いと感じたので、まずはHubSpotの活用を本腰を入れてやってみようと動き出しました。

過去を引きずらない。新規プロジェクトとしての立て直しと問い合わせ管理システム移行

― 現在の推進体制と、定例ミーティングの進め方についてお聞かせください。

和田氏:基本的には、依頼している業務の施策の進捗確認や、ご提案をいただく場になっています。こちら側で議題を細かく設定するというよりは、山田さん側で決めていただいている状態です。そのうえで、ライフサイクルステージを整えたい、AIを活用したいといった、自社だけでは対応しきれない大きな方針の相談もさせていただいています。

スポットではなく継続的に伴走支援をしていただいているからこそ、弊社の内部事情をよくご理解いただいたうえでご提案いただけます。

佐藤氏:私が入る前まで、HubSpotの定例はおそらくマーケティング担当者しか入っていませんでした。他部署も使ってはいましたが、マーケが他部署のものも集約し、取りまとめてくれていました。それだと、全社でHubSpotを利用する上での最適解は見つからないだろうということで、私も定例会に参加して100さんとプロジェクトを進めている状況です。

山田(株式会社100):e-dashさんの場合、既存の運用に手を入れて直すのではなく、佐藤さんを中心に新規プロジェクトとして立ち上げ直したことが、立て直しの起点になりました。担当者の交代が続いて知見が途切れていた状況では、過去のいきさつを引きずるより、経営が見たい数字を起点にゼロから設計したほうが速い。

私たちは、その設計の型と、既存システムからの移行時に生じる実務上のつまずきを補う役割を担いました。この既存を直すか作り直すかの見極めは、担当者依存でCRMが形骸化した企業が最初に判断すべきポイントです。

― カスタマーサポート基盤をHubSpot Service Hubへ移行されたと伺いました。どのような背景だったのでしょうか?

佐藤氏:私がBPR担当として各チームに改善点をヒアリングする中で、もともと利用していた問い合わせ管理システムとHubSpotの連携がうまくいっていないという声が挙がりました。そこで私のほうで企画をまとめ、社長に打診したうえで、HubSpotのService Hubを導入することになりました。

(HubSpot Japan株式会社:カスタマーサービスソフトウェア Service Hub

Service Hubの導入を決めた大きな理由は、CRMの基盤としてすでにHubSpotを利用しており、SSOT(Single Source of Truth)を実現してすべての顧客情報を一元管理したいという思いが強かったことです。マーケティングと営業ではHubSpotを使っているにもかかわらず、カスタマーサポートだけ別のプラットフォームで顧客管理を行うのは、合理的ではありません。

移行してよかった点については、私自身は現場で使っているわけではないため、実際に利用しているメンバーに聞いたところ、さまざまな声が挙がりました。まず、顧客とのやり取りがHubSpotに集約された点です。以前は、メールを送る際に「この方がこれまで何をやり取りしていたか」「どのようなお客様なのか」を問い合わせ管理システムで確認しつつ、HubSpotも合わせて確認する、という二度手間が発生していたそうです。移行後はその工数がなくなり、連絡先をコピー&ペーストする作業も不要になったことで、対応が非常にスムーズになりました。また、テンプレートに社名や氏名を差し込める機能により、そうした入力の工数も削減されています。

また、HubSpotにチームを作っていて、Service Hub自体にパイプラインをチームごとに作っているので、どのチームに相談すればいいのか、一次対応をどう割り振るかがやりやすくなったという声があります。

送信先の確認も格段に楽になりました。問い合わせ管理システムではアドレスのみの表示だったため、送信前に宛先ミスがないか毎回確認する必要があったそうです。Service Hubでは連絡先として登録できるので、その確認負荷が下がりました。あとは、顧客情報とチケットが紐づき、顧客ごとに関連するやり取りを確認できるようになった点も好評です。

― 新しいシステムへ移行する上で、現場の混乱や反発はありましたか?

佐藤氏:反発については、弊社の特性かもしれませんが、あまりなかったんですよね。私自身も中途入社ですが、この会社はもともと反発が少ない社風です。トップダウンが効く会社なので、やると決まった以上、あとは「どうやるか」に議論が向かいます。元々使用していたシステムでできていた機能がHubSpotではできない、どうすればいいか、という問い合わせはいくつもありましたが、移行そのものへの不平不満はありませんでした。

― 移行の実務で、株式会社100の支援が役立った場面はありましたか?

佐藤氏:問い合わせ管理システムからService Hubへの移行では、マニュアルはあるものの、見てもなかなか分からない、自分だけではかなり難しい設定がありました。中を触らなければいけない場面では、株式会社100の山田さんにアドバイスをいただきながら進めました。あのアドバイスがなければ、移行はかなり難しかったと思います。

ただ導入するだけでなく、データを移行し、運用をどう変えていくか。元々使用していたツールの運用とHubSpotの運用は違うので、そこも変えなければいけません。HubSpot側でどのくらいの粒度までできるのか、といった点を、弊社の状況を分かっていただいているからこそ素早く回答いただけたのは、ありがたかったですね。

ツールの移行マニュアルは公開されていても、実際にやったことがある人しか知らない落とし穴や勘所は少なくないです。自社の運用状況を理解した支援者が伴走することで、そうした見えないコストを抑えられると感じました。

数字で課題を判断できる状態へ。MQL・SAL定義がもたらした変化

― 支援を通じて、社内ではどのような変化がありましたか?

和田氏:ライフサイクルステージの整備や、インサイドセールスの架電ログをHubSpotで一元管理できるようにするリード管理の仕組みを、重点的にやっていただきました。それによって、どこに課題があるのかを数字で見て判断できるようになり、改善がしやすくなったという変化がありました。数値的な成果自体はまだこれからのフェーズですが、土台は整いつつあります。

これまでは、入ってくるリードをすべてインサイドセールスに渡していて、優先順位を付けられていませんでした。そこをSAL(Sales Accepted Lead)やMQL(Marketing Qualified Lead)として明確に定義することで、インサイドセールスと合意の取れたリードを渡せるようになりました。なおかつ、業種や売上規模も紐づいた状態で見られるようになったので、この施策はこういう属性の方が獲得しやすい、といった分析もかなり楽になった印象です。

毎回すべてのリードを手渡しし、受け取る側が優先順位を判断していた状態から、渡す前に定義で仕分ける状態へ移行できました。この変化は、マーケティングとインサイドセールスの間で繰り返されがちなリードの質をめぐる摩擦を、感覚論ではなく合意された基準で解消するものだったと思います。

― リードの質を高めたことで、アポイントの獲得にも変化はありましたか?

和田氏:アポ率は良い水準で推移しています。ただ、精査したことで、そもそもインサイドセールスに渡せるSALの数が減ってしまったんです。ですので、その数をどう増やすかを、インサイドセールスとも議論しながら進めているところです。

山田(株式会社100):リードの定義を厳密にすると、アポ率のような質の指標は上がる一方、条件を満たさないリードが除外されるので、渡せる件数は一時的に減ります。これはe-dashさんに限らず、MQL・SALを初めて明確に定義した企業でほぼ必ず起きる現象です。

重要なのは、質が担保された今こそ、母数を増やす施策に振り向けられる状態になったということです。次の段階は、定義した属性データを使って、どの施策がどの属性の獲得に効くのかを検証し、質を保ったまま量を積み上げていくことです。数字で課題箇所が見えているからこそ、この打ち手が取れます。

AI活用による施策の自動化へ。これからの構想

― 現在の定例では、9割がAI活用の議論とのことでした。どのように取り組みを進めているのでしょうか?

佐藤氏:社長から全社に向けて、戦略的にHubSpotだけでなくAIを取り入れていこうという方針が出ています。私のチームにもAI担当がいて、そのAI担当を筆頭に全社のAI周りを構築しています。その一つとして、HubSpotの中でも使えるAI機能があるので、できるものから始めていこうという話で、マーケティングからスタートしています。

和田氏:別で社内で動いている、SDR向けのメール配信をAI化するプロジェクトがありまして、それに沿ってHubSpot内でもAIでメールを作ってみてほしいという要望が上長から入りました。ですので、何をすればいいかは比較的明確な状態でスタートしています。ただ、どれくらいの層に試していくのかが決まっていなかったので、そこをどう決めるかは検討しました。

山田(株式会社100):今、どのツールをどのスケジュール感で使うかを和田さん、佐藤さんと詰めている段階です。対象数を早く、かつ費用対効果を保ちながら増やしていくために、HubSpotのAIクレジットを消費するのではなく、弊社のAIを活用したワークフロー自動化で、データのエンリッチメントとメール施策用のテキスト抽出から着手する方針をご提案しています。対象の絞り込みができたので、これからデータの取り方を確定し、どういうメール施策を目指すかを設計していきます。稼働はこれから、2026年8月開始を予定している状態です。

佐藤氏:社内ではHubSpotの内製化を少しずつ進めています。これまで幅広く巻き取っていただいていた事務的な運用も、AIで自動化できる領域が増えてきましたので、そうした部分は社内で担い、株式会社100さんにはより上流のAI活用を伴走いただく、そんな役割分担に移していきたいと考えています。

HubSpot AIに限らずさまざまなAIツールをどう業務に組み込み成果につなげていくか、その設計と進め方こそ、これから伴走してほしい領域です。3年以上かけてデータの土台を整えていただいたからこそ、次はそのデータを生かしたAI活用に踏み込めると感じています。私たちにとって100さんは、HubSpotのパートナーであると同時に、AI活用全体のパートナーです。

― 最後に、AIを活用して実現したい構想と、同じ課題を持つ企業へのメッセージをお聞かせください。

和田氏:マーケティングの文脈では、本当に理想ではありますが、お客様の行動に合わせて完全に自動でメールを生成して送ったり、コンテンツを出し分けたりする状態までいけるといいなと、部内で話しています。あわせて、AIチャットボットを作り、お客様が悩んでいる情報を集約させて、それをメール作成やSAL創出に生かすといったこともしたいと考えています。

HubSpot Breeze顧客対応エージェント

佐藤氏:数年前のチャットボットは、質問しても定型的な回答しか返らず、かえって不便に感じることもありました。ですが、CRMに蓄積された顧客との接点や商談の履歴と、生成AIを組み合わせれば、一人ひとりが求める情報をパーソナライズして届けることが現実的になっていると感じています。外部のインターネット情報だけを参照するAIと違い、これまでの関係性という自社にしかないデータを起点にできる点が、HubSpotを核に据える強みだと思います。

※記事中の部署名、役職名等は取材時のものです。